『ガンをどう考えるか 放射線治療医からの提言』 三橋紀夫著 新潮新書
がんをどう考えるか―放射線治療医からの提言 (新潮新書) 三橋 紀夫 新潮社 2009-01 売り上げランキング : 430388
|
現在の統計でいくと、二人に一人はガンに罹り、三人に一人はガンで亡くなると言います。程度の差はそれぞれだと思いますが、ガンに罹ることは人事ではありません。自分の身に降りかかる問題だけではなく、自分の家族や周囲などにも関わる大きな問題であります。そこで、ガンについて知っておくことは、ライフサイクルの中でも大切な現実ではないかと思います。
ガンというと、とかく抗がん剤や手術についての是非が問われます。日本でその是非について大きな転機となったのは、司会者として活躍した逸見政孝さんのガンとの戦いではないかと思いますが、ちょうどその頃に近藤誠氏の『患者よ、がんと闘うな』が話題となっていたりと、がん治療へのインフォームドコンセントなどの考えが方に変化が出てきました。
以前よりもがん治療のインフォームドコンセントが進んでいるが、しかし、抗がん剤や手術の話はよく出てくるものの、放射線治療はどちらかというと補助的なイメージしかなく、また、それがどれほど効果のあるものかという認識はほとんどありません。
私の知人の場合も、末期がんで開腹手術をしたものの、病巣が予想以上に大きく手の施しようがなく、仕方がないから放射線治療のみということになったそうですが、どちらかというと“仕方がない”、“やることがないから”という消極的な選択として放射線治療を選択することになったと言います。
しかしそんな消極的かと思われる放射線治療のみを受けただけにもかかわらず、知人は一命を取り留めて丸四年経っております。これは放射線治療単独でも、がんの種類によっては効果がかなりあるという証拠の一つだと思うのですが、放射線治療がどういうものかという理解がないと、それだけでいいのかという不安や疑問が残るのではないかと思います。
ということで、放射線治療とはどういったものなのか?
そういった単純な疑問を説いてくれるのが本書です。
本書の最初の方は、正直退屈な教科書のような解説が並びます。放射線治療が効くのか効かないのかだけを知りたいのであれば、がんの分類などどうでもいいと思ったりもします。しかしこのくどいと思われるくらいの解説が、その後に続く、放射線治療とは何か?という疑問への答えにつながっていき、とてもクリアになります。がんという病気がどういう特徴を持っているかというのもある程度解説されているので、全体を見渡せる感じです。
基本的に著者のスタイルは、事実を述べることに重きを置いているようなので、飛躍した抗がん剤否定論に傾くわけでもなく、かといって放射線だけががんを治せるんだ!という強い主張をすることもなく、分け隔てなく、誠意をもって書いているところが多いです。著者の基本スタンスは、なるべく生命の質を落とさずに、健康寿命を延ばしながらがんと上手に共存していくかというところにあるので、自ずと記述に無理がでていない。それがまた本書に好感を持てるところではないかなと思います。
自分ががんになった時、あるいは愛する人ががんになった時。いったい自分はどのような選択をしたらよいのだろうか。本書は、押しつけがましく一つの治療を主張するものではなく、数多くあるがん治療の中から、放射線治療にはこういったメリットがありますという語りかけのような感じですので、一つの選択肢として読んでおく価値があるかと思います。
後半は最先端の放射線治療についての解説です。今話題の重粒子線治療など、中性子のことなど、かなり話は難しくなりますが、こういった感じでがん治療の研究が進んでいるんだという現在の様子を垣間見ることが出来ます。一部、著者自身の正直な感想が述べられていたり、興味深くもあります。ただし、本書が発行されたのは2009年1月なので、その後も急速な研究が進むこの分野においては、この辺りの記述は年々古くなっていくのは否めないと思います。最新の情報を知りたい方には、注意が必要ではないでしょうか。
最後に蛇足ですが、『患者よ、がんと闘うな』の著者である近藤誠氏も、本書の著者と同じような放射線治療の専門家です。放射線治療から見ると、がんと闘うと言うよりは、がんと共存して寿命を全うしていくという考えも選択肢もあるということを両者が提言しているのも興味深かったです。最近の近藤誠氏の主張は、やや飛躍しすぎのように思いますけども・・・。