『NHKサイエンスZERO ミトコンドリアの新常識』
NHKサイエンスZERO ミトコンドリアの新常識 (NHKサイエンスZERO) NHK「サイエンスZERO」取材班 NHK出版 2011-04-23 売り上げランキング : 251755
|
ミトコンドリアと聞いて、みなさんは何を思い出すでしょうか?
学校で習った生物の授業でしょうか?
生物の授業で使っていた当時の教科書の細胞の図(今の教科書のことは知りませんが)ですと、ミトコンドリアは細長いもので、中にひだがあるような感じのものだったと思います。中にはあの絵とミドリムシの絵を混同して覚えている人もいるくらい、いったいミトコンドリアって何?っていう人もいらっしゃるのでは?
しかし、その後顕微鏡が発達し、生きた状態のミトコンドリアが観察できるようになると、実はミトコンドリアはあの図のような形体ではなく、そしてもっと動きのあるものだった・・・という新しい話しを聴いたらいかがでしょうか?
また、ミトコンドリアは、細胞小器官の一つして、エネルギーを作り出すと言うことだけをサラッと習ったと思います。図を見ると、ミトコンドリアはたいてい一つの細胞に一つしかありませんから、その一つのミトコンドリアがせっせと細胞のエネルギーを生産していたと思っていましたよね?
しかし、実はそれもミトコンドリアの真実ではなく、部位によってミトコンドリアの数が全く違うものである・・・なんて聴いたら、いかがでしょうか?
私は鍼灸師という仕事を通して身体というものを分析し、施術をします。もっともっと究極的に、生きてるって何?生命現象って何?と疑問が吹き出てきます。鍼灸や東洋医学は予防医学と言いますが、もっとそれを証明できるものはないか?そんなことを日々の臨床の中で夢想しながら治療しています。そのために、科学だけではなく、時間があれば人文科学の本も幅広く読むようにしているのですが、それでもなかなかたどり着けない生命の神秘。
そして、ふと、ミトコンドリアって何だろうという疑問が湧きました。そう、ミトコンドリアを解明すれば、もしかしたら良いヒントが出てくるかもしれない。ということで、本書はその入門書として最適でありました。今まで学校の授業で聞いていたミトコンドリアのお話しとは全く違う世界が広がっており、ある意味感動をしました。ミトコンドリアのことを解明していけば、がんなども代謝疾患としてとらえることもできるのではないでしょうか。そして、ミトコンドリアをいじめないこと、それが東洋医学の未病にもつながるのではないか・・・そう直観するのです。
ここから広がるミトコンドリアの世界、これからもっと注目が集まりそうですね。
【キーワード検索】
「ミトコンドリア」 「ミトコンドリア がん」 「ミトコンドリア 生化学」
NHKサイエンスZERO ミトコンドリアの新常識 (NHKサイエンスZERO)
- 作者: NHK「サイエンスZERO」取材班,太田成男
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2011/04/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログを見る
『日本人の心情論理』 荒木博之著 講談社現代新書
ときどき日本人て何だろうと思ったりします。日本人は特殊だとか、日本人の常識は世界の非常識だとか、いろいろ言われたりします。グローバルスタンダードなんてかっこよさげな言葉を持ち出すまでもなく、世界で浮いたりしてしまうこともあるらしい。では、いったい日本人って何でしょう?
本書はたまたま古本屋さんで見つけました。以前の講談社現代新書は、杉浦康平氏の印象的な装幀が素敵なわけですが、本書もその例に違わずいい感じ。ということで、表紙見買いをしたわけです。
本書の冒頭は、沖縄の伝承民謡から始まります。日本人の心情論理というタイトルからすると、王道的には茶の湯のようなワビやサビから入るのかと思いきや、南国の沖縄からスタートです。著者の略歴を見ると、アジア民俗学会理事をされており、『フィリピンの民間説話』と言った本も出しているので、南国の香り漂う沖縄の伝承民謡から入るのも頷かれます。
そんな意外性を持ちつつ本書が始まるのですが、その民謡の中には、著者がキーワードとする「清浄美」「きよら」と言ったものがちりばめられており、とても気分が良くなるのです。読み始めた当初は、南国の香りと日本人の感情論理が今ひとつどうつながるのかと思っていたのですが、それがどんどんつながっていき、根底でつながっているものを感じさせてくれます。そしてそのキーワードが、道元の辞世の句、明恵上人の和歌にも通じていく、ダイナミックな論理的展開が読んでいてとてもワクワクするものでした。
最近の新書は、タイトル先行で中身がなかったり、後半息切れずるものが多いのですが、本書は手抜きのない終始一貫したうつくさを感じるものです。そして、それが日本人の心情論理に通じると言うことで、とても印象深い一冊となっています。
【キーワード検索】
「荒木博之」 「民俗学」 「日本人論」 「沖縄の伝承民謡」
『傷つかない&傷つけない会話術』 津田秀樹著 マガジンハウス
精神科医や心理カウンセラーも使っている 傷つかない&傷つけない会話術 津田 秀樹,西村 鋭介 マガジンハウス 2010-09-16 売り上げランキング : 78816
|
会話というのはとても難しい。
「話せば分る」と人はいうけれど、話しすぎてかえってこじれてしまうこともあるし、かといって何も話さないでいると、どんどんどんどん事態は悪化の一途を辿るということもあります。会話を通してコミュニケーションが取れるというのは、人間特有の優れた能力ではありますが、時にそれが邪魔をすることもあります。
また、話の適量をある程度は理解している人でも、不用意に要らぬことを言ってしまったり、ぐぐっと堪えておけばいいのにもかかわらず、わかっちゃいるけどつい口から出てしまって取り返しがつかなくなることもあります。私自身、小学校、中学校、そして大人になってからも、あの時どうしてあんなことを言ってしまったのだろうと苦々しく思い返す場面がたくさんあり、こころの中で申し訳なかったと相手の人の顔を思い出すことがしばしばです。
それだけ会話というのは奥が深く、一体全体どうしたら良いのだろうかと途方に暮れることがある。
この『傷つかない&傷つけない会話術』は、その難しい会話に、一つの解決方法を提示してくるものです。著者は心理学に詳しい方で、会話がどう成立しているかをとても分りやすく解説してくれています。
本書では、最初に間違った会話の例を掲げ、その後に間違った会話の、どこが間違いかを解説し、その後に訂正したものを載せています。つまり、本書はとても実践的な内容となっているところがためになるのです。
会話の本で具体的なものと言いますと、敬語の使い方や、話し方のコツなど、話し方教室のようなところで教えるものがほとんどだと思いますが、本書は、心理学をベースにしながら、会話で失敗しがちな心理的な要素を指摘し、具体的にそこの改善をはかるという、これまでにない画期的な内容となっています。惜しむらくは、もう少し一つ一つの解説に誌面を割いてほしかったかなとは思います。私は、著者の他の著書を読んでいるので、著者の言わんとする深いところも理解しやすかったのですが、これだけを読んだら、けっこうスルーしてしまうところもあるのではないかと思います。
心理学と会話というと、どことなく相手をコントロールするような、マインドコントロール的な会話術を思い浮かべる方もいるかと思いますが、本書はそういった類いのものではありません。あくまで会話の当事者がどうやったらうまく会話をし、無駄ないざこざを生まないように、そしてよりお互いが成長できるような会話ができるかというところを解説したものです。
会話はけっこう無意識に行われるキャッチボールみたいなところがあり、こういった本を一読しても、なかなか客観的に自分の会話を変えていくことは難しいところがあると思います。本書は、読みやすい故にこころに引っかからないまま読み進めてしまうところがあると思うので、自分の無意識に落とし込めるように、何度も繰り返し読むとよりよい気がします。同様に、著者が出している『ジーパンをはく中年は幸せになれない (アスキー新書)』も読んでおき、こちらも合せて何度も読んでみることをお薦めします。
【著者の他の本】
【キーワード検索】
精神科医や心理カウンセラーも使っている 傷つかない&傷つけない会話術
- 作者: 津田秀樹,西村鋭介
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2010/09/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 3人 クリック: 47回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
『グルコサミンはひざに効かない 元気に老いる食の法則』 山本敬一著 PHP新書
グルコサミンはひざに効かない 元気に老いる食の法則 (PHP新書) | ||||
|
テレビを見ていると、たくさんの健康食品のCMが流れる。有名な俳優やタレントを使って、これでもかこれでもかと効能を訴えかけてくるものも少なくない。そして消費者を煽るかのように、初回限定キャンペーンなどで何とかして取り込もうと躍起になっている。最近では特保の宣伝も加わり、あれもこれも、どれもこれも身体にいい気がしてくる。
そしてそれに輪をかけて混乱させるのが、テレビの健康情報番組。民放ならまだしも、NHKなどの健康情報番組でも様々な食品が取り上げられて、放送があった次の日には、その食材がスーパーからなくなるというのだからものすごい影響力。
しかし実際のところ、どれだけの健康食品が身体にいいのだろうか?ほんとうにグルコサミンを摂ると、膝が良くなるのだろうか?
私は鍼灸師をしているので、患者さんからも何を飲んだらいいのかとか、CMでやってるあれはどうなのかと聞かれることがあります。本来であれば、私自身が一つ一つ実際に使ってみてその効能を実感できるかどうかを測るのが一番だと思うのですが、これだけの数があるとちょっとそれは無理・・・。
ということで、先ずは正しい科学的な見地からその効能を検証しておく必要がある。そこで、本書を手にしてみたのですが、これがなかなか良かったです。
本書では、タイトルにあるグルコサミンや、健康食品によく含まれるコンドロイチンなどの物質を皮切りに、健康情報番組で取り扱われる赤ワインなどの食材なども取り上げています。さらには、長生き遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子についても言及があり、え?と思わず言ってしまいそうなことも書かれています。
ところどころ科学者らしい不器用な感じの著述もありますし、最後の章については特に必要なかったかな?というところもありますが、正しい知識を身につけて、食品リテラシーを上げるためにはお薦めの一冊です。無駄なお金を、効かない健康食品に注がないためにも読んでほしいと思います。
ちなみに、鍼灸師の中には、高価な健康食品を患者さんに売りつける方もいると聞きますが、そういった商売をしている方には気をつけないといけません。
また、先日、たくさんの健康食品を摂っている方に、一度健康食品デトックスをお薦めしたところ、1~2週間で顔色がすっかり良くなりました。おそらく、様々なサプリメントや健康食品が、肝臓の解毒機能などに負担をかけていたのだと思います。最初は効果が出ていた健康食品でも、長期間摂ることによって負担になることも出てきますので、その使用については注意が必要で、体調に合わせて適宜増減することがいいのだと思います。
【その他お薦めの本】
【キーワード検索】
「食事 栄養」 「栄養学」 「食育」 「アスリート 食事」
『武術と医術』 甲野義紀・小池弘人 集英社新書
武術と医術 人を活かすメソッド (集英社新書) 甲野 善紀,小池 弘人 集英社 2013-06-14 売り上げランキング : 155880
|
甲野義紀氏は、古武道を通して人間とは何か?動きとは何か?ということを問い続ける現代の求道者。そして小池弘人氏は、その甲野氏に武道の手ほどきを受けた医師で、統合医療を推進している方。どちらも正統な流れからすると、少し異色の存在。特に甲野氏の探究心は、画一化された現代社会においては特別な存在で、益々その異彩が放たれているはないでしょうか。
本書は二人の対談です。甲野氏が小池氏に呼びかける形で始まったようで、小池氏は、冒頭から自分の専門分野である医術について、特に統合医療について語りはじめる。そこに甲野氏が切り込んでいくといった感じです。
対談というものは、お互いの共通認識を共有することから深まっていくものですが、薄い対談やその方向性を見出せないときは、お互いの主張をするだけで噛み合わないまま終わることも少なくない。そのため、とても著明な人が語り合ったものでも、中身がなかったり、表層的な話しで終わってしまうこともしばしば。
しかし本書は、武術と医術という難しく、奥が深い話題にもかかわらず、両者の語り合いがうまく噛み合っており、かなり突っ込んで所まで話をしています。
対談ですから、細かい議論、正確な知識というよりは、お互い経験論でざっくばらんに語っているのは当然で、それがいいと思う人もいれば、いい加減な井戸端会議と思う人もいるかもしれません。しかし、本書は対談のいい所が出ており、かつ真摯に向き合って話している様子がうかがえて、なるほどと二人の対談に思わず頷いてしまうところも多々あります。対談としては、中身が濃いものではないでしょうか。
本書では、代替医療について語っているところが多いですが、正直なところ、代替医療は玉石混淆であります。そのあたりのところをもう少し突っ込んでみても面白かったのではと思います。本物を見極める目、そういったものをどう養うかというところも聴きたかったのが素直な感想です。
個人的には、甲野氏の若いときの志の持ち方がとても気に入りました。探求していくことは、一生を通じてぶれないことが大切なのだと思います。私も鍼灸師としてまだまだ探求すべき分野がたくさん遺されていますが、この好奇心と探究心を絶やさずに、鍼灸道を邁進していきたいと思います。
【さらに調べる】
「甲野義紀」 「小池弘人」 「統合医療」 「代替療法」 「東洋医学」