『脳には妙なクセがある』 池谷裕二著 扶桑社
東洋医学では、「心は神を蔵す」という言葉がありまして、精神の中心は心臓にあると考えています。これは今の現代医学から考えますと、とてもおかしなお話しでありまして、これが東洋医学が今ひとつ信用されない理由にもなっています。
しかし話しはそんな簡単なことではなく、もっと深い話が東洋医学にもあります。東洋医学においても、決して脳をないがしろにしているわけではありません。脳も大切な身体の器官で、重要でありまして、それは明代の医家である李時珍が明言しています。治療においても、脳を置き去りにすることはありません。
でも、そうはいってもやはり東洋医学においても脳はまだまだ未解明。さすがに東洋医学のバイブルである『黄帝内経』といっても、正直手薄な分野になっております。この未解明な部分に、新たな東洋医学的な解釈を加えていくことは、現代に生きる私たち東洋医学を専門にする者の使命の一つではないかと思っています。
ということで、東洋医学と現代の脳科学を結ぶためにも、脳に関する本も手にするのでありますが、本書は一般の方にも分かりやすく書かれた脳の本。しかも、日常生活に密接な小ネタが満載であります。
脳に関する本は、大脳生理学のような専門的なお話しも多く、それはそれで楽しく読める門もあります。しかし本書は、大脳生理学のようなお話しだけではなく、行動心理学や日常生活などで良くある話がいっぱいで、脳の本であることを忘れるほどであります。
というのは、筆者は、この脳にまつわるお話しを知ることは、とどのつまりは「楽しく、ごきげんに生きるために」つながるという基本的な姿勢を持っているからなのだと思います。脳が持っている妙なくせを知ることは、日常生活を楽しくする手段になるというのであります。
本書に書かれているものを見てみると、「「行きつけの店」にしか通わない理由」「「今日はツイテる!?」は思い込みではなかった!」、「脳は自分で「できる奴」だと思い込んでいる」など、日常生活あるある的なことが満載で、興味をそそられます。
著者の日常生活を楽しもうとするところや、かといって科学から離れないというぶれない視点、そして信頼できる論文や資料からちゃんと引用する姿勢などもまた、本書の楽しさを確実にしているのではないでしょうか。
最後の方の章では、東洋医学に繋がるお話しもありますし、必ずしも脳だけではないという(どなたかは『唯脳論』なんていう本もありますけど)ところにも共感を持ちました。
脳の研究は生理学の中でも最先端の分野の一つで、これからもたくさんの新しい報告がなされると思います。そういう意味では、本書の内容もどんどん塗り替えられるかと思います。そんな知見が集まったら、また改訂版か新たなごきげんな脳関連の本を期待したいなと思います。
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