『人間をみつめて』 神谷美恵子著 河出書房新社
大学に入って、最初に受けた授業が一般教養の倫理学でした。
当時は大学に入りたてで右も左も分らない。もちろん友達もいないから、オリエンテーションに出て履修登録というものをするということをおぼろげながらに理解する。そして授業が始まって1週間くらいは、どの授業を選ぼうかいろいろ見ることができるらしい・・・ということが分った。
そこで倫理学を履修しようと思ったのだが、どうやら先生が二人いる。同じ科目なのだから、同じ内容の授業をするのだろうと思いきや、それは高校までのお話しで、大学は教授によって授業内容は全然違う。
そこで先ず一人の倫理学の授業を受けた。とても丁寧な先生で、一年間こんな勉強をしますよ~というお話をしてくれた。私は、まぁよく分らないけれどこの先生にしようとすでに決めていたが、そんな中で、ある人が、「すみません、もう一人倫理学を教えている先生がいますけど、どう違うんですか?」と不躾に聴いていた。私は内心、この人ほんと失礼な奴だなぁと思った。
しかし先生は、こうおっしゃた。
「あちらの先生は有名ですが、私は無名です。」と。
別に嫌味でもなく、ニコッと笑いながら話した。
私はそれを聞いて、あ、とっても信頼できる先生だなぁと思って、迷うことなくこの先生の倫理学を履修しました。
この先生の名前は、三嶋輝夫教授。忘れもしません、とても良い先生でした。
と、どうでもいい話をしてしまいましたが、この授業で紹介された本が、神谷美恵子氏の『生きがいについて』だったのです。
大学で初めての授業。そこで紹介されたこの『生きがいについて』は、私の頭をガツンと叩き付けるほどの衝撃でした。ぐいぐい引っぱられる文章、そして真実を感じる内容に、私はとても感銘を受けました。その後私はそれなりに普通の大学生活をするわけですが、心のどこかにはこの本の骨子が私の生きる指針になっていたように思います。
そして月日は経ち、いつの間にか『生きがいについて 』の存在を忘れていました。
しかし最近、この冒頭の本を本屋さんで見つけまして、あの日のことを思い出して手にしたわけであります。
最初にこの本を読み始めたとき、どうもペースが掴めない。あの時の感動のようなものは得られないかなと思ったのですが、しかし、しばらくしたらあのぐいぐいと引き込まれる世界が再び目の前に広がってきました。
うん、やっぱりそうなんだ、うん、そうだ、そうだ・・・。
私の中で眠っていた何かが再び動き出したように感じます。
そう、こぢんまりと自分のためだけで生きて良いのだろうか?
いや、もちろんそれはそれでいいんだ。
そうじゃない・・・。
たとえどんな生き方を選択しようとも、それはその人の表現にすぎない。
そうではないんだ、もっとその人の奥の奥にある魂。
その魂が震えているのか、ちゃんと求めているのか。
そしてそれが、大きな存在に見守られているという実感があるかどうかなのだろう。
そう、そういった大きな存在の元に生かされている自分、その自分を自覚したならば、もう迷うことなく自分の道というものが自ずと拓けていくのだろう。
深く深く、また神谷美恵子氏の言葉が心に響いてくるのです。