『数に強くなる』 畑村洋太郎著 岩波新書
数に強くなる (岩波新書) 畑村 洋太郎 岩波書店 2007-02-20 売り上げランキング : 83230
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小さい頃やっていた習い事で、もう一度きっちりとやり直したいものの一つに、書道と算盤があります。書道については、日本の文化でありますし、やはりこの歳になると字がきれいであると言うことは、教養のある大人のたしなみとも思いますので、きれいに書けるにこしたことはないですよね。
そしてもう一つの算盤。
小学校の時、算盤をやっている友達が多く、自分もやってみようかなと思って行ってみたのですが、何がなんだかさっぱり分らずすぐに挫折。世の中には計算機というものがあるのだから、それを使えば問題ないし、筆算(ひっさん)が出来ればいいんじゃないかと開き直り、だいたいあの珠を動かすことの必要性が分らなかったのです。あの算盤の珠が何を象徴しているのか、そういったことがわからないと先に進めない厄介なところがありました。
しかし、算盤を学び直したいと思ったのは、司馬遼太郎の本を読んだ時でした。たしか司馬遼太郎の『司馬遼太郎全講演 (朝日文庫)』を読んだ時だと思うのですが、その中に、「西郷隆盛をはじめ、幕末に活躍した志士たちはみなそろばんが出来た」という記述がありました。新しい時代を切り拓くために奔走した志士たちは、単に武術に長けていただけではなく、しっかりと数字で以て明治維新の計画を練っていたと言うことなのです。政治家と数字というのは、どうも私の頭の中では全くの別物だと思っていたのですが、そうではなく、政治家こそ数字に詳しくあるべきで、国全体を把握するための手段として、数字に明るくしておくということが必要なのだと、この記述を読んで思ったのです。
私は大学で経営学を学びましたが、当時はやはり数字の把握が十分に出来ませんでした。どれくらいの規模なのか、何を意味するのか、指標となる数字の意味が今ひとつ飲み込めず、実感がもてないまま授業を受けていました。いかんですよね、これは。
現在私は、政治家ではありませんし、鍼灸院を経営はしていますが、どちらかというと職人気質で現在は一人でやっておりますので、経営者という感覚もありません。なので、数について強くなる必要はないのですが、しかし、それでもやっぱり数についてある程度の受容能力を身につけておくことは必要だと思っています。もしかしたら、こういった数への教養を高めておくと、鍼灸治療にもいい視点が出来るかもしれない、と思うわけであります。
と、話が全然違う道にそれましたが、『数に強くなる (岩波新書)』です。
著者の畑村洋太郎氏は、『失敗学』で有名になった工学系の教授です。テレビにも度々出演されていますし、2011年5月からは、政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会委員長にも就任されているので、ご存知の方も多いかと思います。
ということで、畑村洋太郎氏は、「数について強くなる」ためにも適任の先生かと思いますが、本書は講義を聴いている感じで、喩え話しを交えながら分かりやすく進んでいきます。ところどころに氏のユーモアも入ってくるので、数に弱い私などでも肩の力を抜きながら読むことが出来ます。全編通して難しいところはなく、なるほどなるほどと興味をそそられながら一気に読み終えることが出来ました。
読み終えた後、こうして数と付き合っていくことが大切なのだと、痛感しています。また、いろいろな事象を数に変換することで、真実の側面が見えてくることがあると言うことも知ることが出来ます。数に対する抵抗力をなくし、数に親しむ、そういった姿勢を本書から学ぶことが出来ます。また、本書の中では、真のリーダーは数に強いというような記述もありましたが、私が以前司馬遼太郎の本を読んでいたことと同じ内容で、やはり算盤を学び直してみようかと思った次第であります。
後半はより具体的な数の応用の仕方があったり、畑村氏独特の見解があったりと、それぞれの仕事で応用可能なものがちりばめられているかと思います。
もう一度数について学び直したい方、現在中高生くらいで数学の授業に苦手意識を持ち始めている方などにお薦めです。
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