続・本でもって

専門は鍼灸・東洋医学なのですが、そこを軸にしながら興味がある本を読んでおります。ときどき、全然違うものもありますけども。

 

 

『技士道15ヶ条』 西堀榮三郎 朝日文庫

技士道 十五ヶ条 ものづくりを極める術 (朝日文庫 に 9-1)

西堀 榮三郎 朝日新聞社 2008-01-11
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by ヨメレバ

 

 シャープの凋落ぶりが深刻だが、それを評して、識者の中にはその原因を、「液晶テレビでの成功体験にしがみついた結果」と言う人がいる。インターネットが普及し、常に新しい情報が行き交うなかで、今日新しかったものが、明日の朝には色褪せて見えるくらいとてつもなく新陳代謝が速い世界になり、かつての成功体験がもはや通じなくなっているという意見も確かに頷けるところもある。
 しかしそうはいっても人間は経験によって成長するものだ。挫折も含めて、経験は人を大きくしてくれると思うし、それなくして人生を語ることは出来ないように思う。なので、識者が言う成功体験の否定は、ちょっと的外れのような気がする。悪いのは、成功体験だけで舞い上がってしまい、その成功を分析したり、次のステップに活かそうとする真摯な態度がないことなのではないだろうか。大事なのは、成功した結果ではなく、そこに行くまでの過程の分析ができているかだ。その分析がなければ、確かに一回の成功はそれっきりで後には続かない。

 本書の著者である西堀榮三郎氏は、第一次南極観測隊の副隊長兼越冬隊長を務めたり、品質管理の分野で活躍したりと、様々な分野で先駆的な活躍をされた実践家。経験の塊のような人物です。
 私がこの方を知ったのは、たまたま見ていたNHKのプロジェクトX。それは第一次南極観測隊についての回だったと思うが、既に故人である西堀氏の言葉や態度がところどころで挿入され、その時の状況が熱く再現されていました。そこで、西堀氏のお弟子さんの一人が、実験の失敗をしたときのことを語っており、怒られると思ったら逆に西堀氏はよくやったと誉めてくれたという。その時のことをこのお弟子さんは今でもしっかりと覚えていて、感極まって大泣きしながら語っておりました。私はこれほどまでに人を惹きつける人物とは、一体どんな人なのか、それ以来ずっと頭の隅にありました。そしてある時その頭の隅が蓋を開けて、ふと思いついてAmazonで探して読むことにしたのです。

 本書の出だしは、西堀榮三郎氏の自伝的な内容。しかし自伝的内容に留まらず、自分がどうしてこの道を選んだのかという背景が、人間と自然の関係の在り方を現していてとても興味深いです。自然を尊重しながら、自然と同期していく氏の歩み方は、これからの日本にとっても参考になるところが多いです。
 その次は、「技術を考える」ということで、ここでも自伝的要素を少し含みつつ、技術者としての心構えを説いております。私も鍼灸という技術の研鑽を積む者として、読んでいると背筋が伸びる感じがします。
 続いて「品質を考える」ということで、工業製品などの品質管理について記してあります。私は大学では経営学部に通っていましたが、その中で、QCサークルと呼ばれる品質管理の授業を受けたことがあります。しかしその当時は全くもってそれが何にとって重要であることなのかも分らず(教授もけっこうフランクにゆるい授業ということもあってか・・・)、「サークルって、大学のサークルみたいなもの?なに、楽しいのそれ?」みたいなノリでよくわからず聞いておりました・・・。そんな私のいい加減さを反省しながらこの章を読んだわけですが、新しい発見といえば、品質管理といえば日本のお家芸かと思ったのですが、戦後はそうではなかったということをここで知ったことです。原発の汚染水処理の問題で、“オールジャパン”という言葉がよく使われていましたが、今も技術水準は高いままで、“オールジャパン”と誇れるだけのものがあるのかどうか、もしかしたらその水準が揺らいでしまったからこそこのような事態にあるのか、少し考えさせられるお話しでもありました。
 その後、「組織を考える」「技術を極める」という章が続き、西堀榮三郎氏の思いの丈が隅々までほとばしっていきます。

 この本は、いくつかのところで発表されたものをまとめ、加筆されたそうなのですが、氏はこのとき御年82歳。とてもとても、ここまで書けるものとは・・・。頭もクリアであることはもちろんのこと、それを支える体力もしっかりしていたこと、そして何よりこの社会を良くしていこうという強い情熱が、氏の一生を通じて貫き通していたのでしょう。

 人を学ぶということは、人の経験や体験を学ぶことでもあります。昨今成功体験に拘泥するなとも言われますが、いやいややはりこれだけの大人物に出会えることは、その方の良き体験を学ぶことであり、そこから自分の糧にもつながります。
 本書は若い方にももちろんですが、人生の後半を充実したい方まで、幅広い年齢でそれぞれの示唆をえることができると思います。そして、本書がすごいところは、単なる懐かしいで終わってしまいがちな自伝的なもので終わらずに、それよりも何倍にも増して具体的な方法論もたくさん包摂された実践の書であること。86歳まで技術道を貫いた魂の、体験的、実践的書籍なのであります。

 NHKプロジェクトXで、西堀榮三郎氏が良く語っていた言葉が紹介されていました。上述したお弟子さんも、失敗された時に西堀氏に語ってもらって救われた言葉。それは・・・

 とにかく、やってみなはれ 西堀榮三郎

【西堀榮三郎氏の他の著書】
石橋を叩けば渡れない 西堀流新製品開発―忍術でもええで ものづくり道

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技士道 十五ヶ条 ものづくりを極める術 (朝日文庫 に 9-1)

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